家族から個人へ

「近代住居がそうであったように、現代住居も現代家族以外を軸として成立しないのだがーー、しかし現代では「家族」は名も実もない。あるものは個人だけである、あるいは社会全体が家族であり、その構成単位が個人である。そしてその住居を考えれば、この構成単位がそのまま住居単位となる以外はない。それは一人の個人によって占められる住居単位である、そのような個人単位の空間は、一般に「個室」と呼ばれる。それは寝室や居間などの機能単位の部屋ではなく、一人の人間が一日の生活を営める場である。そして男も女もそれぞれの個室に住む、また子供も専用の個室をもつ、とりたてて居間がある必要はない。その機能はコミュニティによって担われる。」( 黒沢 1997:24)

「そしてこの住居の一般解は、「Σ個室」あるいは「ΣIR」であって、その住様式は「個室群住居」とよばれる。それはあたかも独身寮やアパートであって、いうまでもなく、独立家屋で建てられることを自己矛盾とする。どこまでが一軒かということに意味がないのだ。そして最初の「個室群住居」は、普通のアパートが「個室群住居」として住まわれることに始まる。アパートをひとりで一部屋借りている夫妻は、いまではもの珍しいことではない。もちろん、それが立派な「個室群住居」であることはいうまでもないが、他方、独立家屋においても、夫婦の寝室が分離されおのおのが個室化した例は聞くようになった。」 ( 黒沢 1997:24‐25)

黒沢[1997]は、社会と個人が直接つながる現代であるから、家族を単位とした独立家屋でなく、個人を単位とした個室群住居がふさわしいとする。

 

黒沢 隆 1997 『個室群住居ーー崩壊する近代家族と建築的課題』,住まいの図書館出版局