理想の住宅、と家族

「住居の改良に関わる言説は、「美的なもの」「道徳的なもの」「能率的なもの」を志向すると言うことができる。住宅は、美しく、道徳的で、合理的なものでなければならなかった。」(祐成 2008:246)

祐成は 優生保護法が施行されてから出生率が急落したことに触れ、 中川[2000]を引用しつつ、「社会の水準で生じた貧困や生活基盤に関わる問題が、集合的に解決されるのと並行して、あるいはそれより先んじて、プライベートな領域で、個別的な解決を図るべきものとして意識され、そのための実践が組織された」 (祐成 2008:248) とする。祐成が引用するように、中川[2000]は膨大な中絶行為が行われる背景には、貧困からの脱出とよりよい生活への志向があると指摘する。

「住宅と近代家族は、たがいにもう一方を前提とする関係にある。むろん、近代家族なる集団を前提として、住宅という自己完結した商品の所有が志向され、住宅を取りまく制度が整備されると見ることもできる。しかしその逆、つまり住宅を生産するシステムが住宅を消費する主体としての近代家族を必要としたと考えることもできる。」 (祐成 2008:250)

住宅が要求する近代家族、その身体は何よりも健康であることが前提であり、病や障害を抱える身体は対象とされてこなかった。

祐成 保志 2008 『〈住宅〉の歴史社会学――日常生活をめぐる啓蒙・動員・産業化』,新曜社