鋳型としての住居

「幼児たちは、住居の秩序を乱すアウトサイダーであり野蛮人である。親から教わるのは言葉だけではなく、空間のルールも学ぶ。ウッドとベックら(※)はある家族に対する七年以上にわたる調査で、リビングルームに二二三種類ものルールがあることを見いだした。そうしたルールは、幼児がいない限りは潜在化している。しかし汚したり散らかしたりといった幼児のふるまいはルールを顕在化させる。」(祐成 2008:21)

※Wood, Denis. and Beck, Robert J. 1994. Home Rules. Baltimore : Johns Hopkins University Press.

「幼児にとってみれば、住居とはルールでがんじがらめの空間である。社会の側から見れば、さまざまな行動の規範が埋めこまれた場所である。しつけは、幼児という他者を文字通り「飼いならす」実践のことである。それはときには暴力すらともないかねない闘争の過程である。飼いならされる側はさまざまな抵抗を示すであろう。場合によってはそれが住居の解体をもたらすかもしれない。しかし、たいていの場合、ルールとしての住居のなかで時を過ごすことを通じて、人々は身体に内在する快―不快の感覚を自ら調整するようになる」 (祐成 2008:21)

祐成 保志 2008 『〈住宅〉の歴史社会学――日常生活をめぐる啓蒙・動員・産業化』,新曜社